<総記録社会>というユートピア…『一般意志2.0』
本書『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル 』はルソーの<一般意志>に触発された本。でも東浩紀さんの主張する<一般意志2.0>を担保するものはルソーではなく、むしろスコット・ペイジの方かもしれない。ペイジは民主主義そのものにとって重要な、大衆の示す属性?に重大な事実を発見したからだ。
それが本書で紹介されている「多様性予測定理」と「群衆は平均を超える法則」の2つ。
タイトルのルソー、フロイト、グーグルにそれぞれ重要な意味があるけど、民主主義だけではなく社会一般あるいは世界そのものにとって重要なのはスコット・ペイジの発見かもしれない。ペイジの理論はある意味で大衆論や大衆という概念そのものにケリをつけた可能性もある。
一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル
著:東 浩紀
参考価格:¥1,890 価格:¥1,890 |
ペイジ(の訳)のいう「衆愚」が正確な予測を生みだすというのはどういうことなのか? ペイジが属するサンタフェ研究所や複雑系では金融の予期理論なども研究されていて、本書『一般意志2.0』のなかでも<予測市場>などが紹介されている。特別な知識がない一般的な人々でも(つまり専門家でなくても)ある方法である特定の世界の予測ができるというもの。(投資の世界ではある程度知られているかもしれないがサンタフェ研究所では株価の予測システムなどとして成果を生んでいる。日本でも新日鉄の溶鉱炉の制御システムから生まれた金融の予測システム、日立のヘッジファンド向けシステムなどがある)
「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき
翻訳:水谷 淳
参考価格:¥2,520 価格:¥2,520 |
極端にいうと少数のプロより多数のアマチュアの方が正しいというもの。最高の英知だと自負している科学者が原発事故を想定できず、地球物理学者が太平洋は広いから津波は拡散して10メートル以上の高さにはならないと理論的に判断し、これらが現在の福島原発事故の原因になっている事態は、歴史的、経験的な事実として日本の各地に記録されている20、30メートルの津波が来たという事実データと比べてコッケイ…。複雑な理論やスパコンによる計算が根本的に意味を成さない、それどころか致命的な陥穽を含む可能性を311は証明してしまっともいえる。他方、人々の生活の環境に刻まれた記憶=データは十分に大災害をヘッジできる可能性があった…。
東さんが<総記録社会>と呼ぶ近未来?の社会はリアル。部分限定ならすでに現実だし、個人がみんな自分の総カルテみたいなものを総背番号とともにもつようになるのかもしれない。プライバシーの問題とか監視社会だという指摘はあるけれど、そこからの離脱が自由ならOKではないか?と思う。刑務所の外と中のどちらが刑務所かとかディニーランドの外と中のどちらがディズニー的かという指摘はボードリヤールみたいに以前からあった。ただそれがリアルになってきたということ。そこへの参加と離脱という選択が自由ならばそれでいいのでは…ということで究極はやはり自由の問題かもしれない。
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ステキな一般意志がいっぱい…です!
▲Stairway to Heaven
書評:東浩紀『一般意志2.0』
ひとびとはこの枠組のなかで、宗教的・政治的・文化的な共同体を自由につくることができる。だがそこには、ひとつ大事な原則がある。どのような共同体も、本人の意思で自由に退出できることだ。
▲Living Well Is the Best Revenge
東浩紀『一般意志2.0』http://tomkins.exblog.jp/tb/17552265
「一般意志2.0」がユートピアにつながるか、ディストピアへの道であるかについてはひとまず措くこととしよう。東は本書で「未来の夢」を語ろうとする。ペシミズムに毒された現在にあって、議論の内容はともかく、東の姿勢に私は強い共感を覚えるのだ。
▲yamachanblog
一般意志2.0と新しい政治メディア(東浩紀と津田大介)
「一般意志」を言語で説明しようとするのが思想であるならば、それを言語ではなく絵や音楽で表現するのが芸術なのかもしれないと思いました。
▲憧憬と原景
東浩紀氏の「一般意思2.0」(第7回) 無意識を可視化する装置
ネットという無名性の中で展開される赤裸々な人間の欲望を「生のかたち」で引き出すことが、果たして本当に「一般意思」といえるのだろうか。
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