「一週間de資本論」&「超訳『資本論』」
好評?だったらしいNHKの「一週間de資本論」。講師はマルクスオタクの的場昭弘さん。ワープアや世界不況、金融破綻からマルクス本ブーム?資本論ブームといわれだした中でそのブレークのキッカケの一つが的場さんの本「超訳『資本論』」。資本論のガイドや入門書はいくつもでているけど「超訳『資本論』」は偏りのない解釈と現実の具体例を多く反映させたことで注目されました。さらに重要なのは、ここなりにプッシュすると世界経済の混乱の解決の可能性を世界そのものに見出そうとしているのがこの本。個別国家の解消とEU全体の統合を目指してきたジャック・アタリが「一週間de資本論」のオープニングとエピローグに登場したのも同じ理由です。
「経済とはモノを媒介にした人間関係だ」と経済学の講義を受けてきた自分にとって「超訳『資本論』」の「資本主義とは、人間関係である」という指摘は親近感があって反経済反資本主義という流行や新たな信仰のなかでますます新鮮な感じがしたりします。
さらには<すべての関係は意識である>と資本主義からサブカルや恋愛までも射程している吉本隆明さんの幻想論が上部構造論=共同幻想論の進化版?だという事実は、いまこそ納得できる感じも。
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●現在を「知る」ためという一点で書かれた本。「知った」後は…どーするか、が問題?
最近の書店の隠れヒットがマルクス本。本書はニューアカブームの仕掛人(『構造と力』のプロデューサー)でもあった今村仁司の『マルクス入門』とともに評判の入門書だ。いかなる解釈も解釈者の能力やTPOに規定される(党派的な限界でしかない)が、本書は分かりやすく現在の状況をも反映したものになっている。現実の具体例を多く反映させた資本論の後半(の記述の仕方に)にウエイトを置いているからだ。
ワーキングプアはずっとワーキングプアでしかないことが示されているが、絶対窮乏化論がこんなにカンタンに示せるコトを評価すべきだろう。専門用語の羅列は識者の自己満足でしかないし、タームの理解を独占しているかのように見せかけることによる脆弱な立場の維持でしかない。ホントに理解していればどんな難しいコトでも誰にでも理解できるように簡明に表現することができる。プロという立場を保身するための専門用語は必須ではないハズだ。
現象を語り事実を修飾する文化の特徴そのままにさまざまなコトバが生み出されるが、マテリアルでテクノロジカルな事実は、たいがいシンプルで誰にとってもリアルだ。
たとえば失われた10年以降のコギャル、少年犯罪、ひきこもり、ニート…これらのどこがどのように問題なのか? 問題の側面は語る者によってさまざまだが、最終的に解決すべきコトは一つに収斂するハズで、それは経済的な問題だ。ずっとサヨクが訴えてきた単純明快なテーマであり、最初で最後の問題が、コレだ。
いよいよオカシクなってきた社会や経済を目の当たりにして、ニート対策のような政策で対応しようとする対症療法はいくら積み上げても最終的な解決にはならない。
本書は何気なく、しかし本気で、その最終解決への認識の糸口を提供しようとしている。それが階級闘争への自覚だ。「今という時代を知るために読む。この一点だけで読みます」と『資本論』紹介を目的とした本書のスタンスが表明されている…しかも、その『資本論』は「階級闘争の書です」…なのだ。
資本主義のシステムや価値の形態を語ること(のみ)で現実とのマテリアルな接触を回避し逃避してきた各種分析理論は、ケインズ理論のように政権与党によって現実に駆使され成長し鍛錬されてきた理論とは違って、ただタームを列挙する言葉遊びそのままに呆られるタイミングを待つだけになっている。
リアルに泥まみれになれない、科学を自称する○○理論などとも違って、本書は正統サヨクのセントラルドグマである剰余価値説あるいは労働価値説を簡明に解説し生産(労働)の価値と交換(市場)の価値のギャップが隠蔽されるところに問題があることを示唆している。
リアルで説得力があるのが…資本主義が国家を超える独占を形成し、そういったグローバリズムの世界的な拡大が、やがて大きな変化を意外に早く招くかも…という指摘。それらを支える基本認識こそ「資本主義とは、人間関係である」というグレート?な断定が圧巻だ。
真っ当なサヨクの認識ツールの登場となるか? 本書にはさまざまな読まれ方、利用方法が期待されるだろう。
(2008/06/21)
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超訳『資本論』 (祥伝社新書 111)
著:的場 昭弘
参考価格:¥882 価格:¥882 |
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