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2010年10月24日 (日)

「一週間de資本論」&「超訳『資本論』」

好評?だったらしいNHKの「一週間de資本論」。講師はマルクスオタクの的場昭弘さん。ワープアや世界不況、金融破綻からマルクス本ブーム?資本論ブームといわれだした中でそのブレークのキッカケの一つが的場さんの本「超訳『資本論』」。資本論のガイドや入門書はいくつもでているけど「超訳『資本論』」は偏りのない解釈と現実の具体例を多く反映させたことで注目されました。さらに重要なのは、ここなりにプッシュすると世界経済の混乱の解決の可能性を世界そのものに見出そうとしているのがこの本。個別国家の解消とEU全体の統合を目指してきたジャック・アタリが「一週間de資本論」のオープニングとエピローグに登場したのも同じ理由です。

「経済とはモノを媒介にした人間関係だ」と経済学の講義を受けてきた自分にとって「超訳『資本論』」の「資本主義とは、人間関係である」という指摘は親近感があって反経済反資本主義という流行や新たな信仰のなかでますます新鮮な感じがしたりします。

さらには<すべての関係は意識である>と資本主義からサブカルや恋愛までも射程している吉本隆明さんの幻想論上部構造論=共同幻想論の進化版?だという事実は、いまこそ納得できる感じも。
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●現在を「知る」ためという一点で書かれた本。「知った」後は…どーするか、が問題?

 最近の書店の隠れヒットがマルクス本。本書はニューアカブームの仕掛人(『構造と力』のプロデューサー)でもあった今村仁司『マルクス入門』とともに評判の入門書だ。いかなる解釈も解釈者の能力やTPOに規定される(党派的な限界でしかない)が、本書は分かりやすく現在の状況をも反映したものになっている。現実の具体例を多く反映させた資本論の後半(の記述の仕方に)にウエイトを置いているからだ。

 ワーキングプアはずっとワーキングプアでしかないことが示されているが、絶対窮乏化論がこんなにカンタンに示せるコトを評価すべきだろう。専門用語の羅列は識者の自己満足でしかないし、タームの理解を独占しているかのように見せかけることによる脆弱な立場の維持でしかない。ホントに理解していればどんな難しいコトでも誰にでも理解できるように簡明に表現することができる。プロという立場を保身するための専門用語は必須ではないハズだ。

 現象を語り事実を修飾する文化の特徴そのままにさまざまなコトバが生み出されるが、マテリアルでテクノロジカルな事実は、たいがいシンプルで誰にとってもリアルだ。
 たとえば失われた10年以降のコギャル、少年犯罪、ひきこもり、ニート…これらのどこがどのように問題なのか? 問題の側面は語る者によってさまざまだが、最終的に解決すべきコトは一つに収斂するハズで、それは経済的な問題だ。ずっとサヨクが訴えてきた単純明快なテーマであり、最初で最後の問題が、コレだ。

 いよいよオカシクなってきた社会や経済を目の当たりにして、ニート対策のような政策で対応しようとする対症療法はいくら積み上げても最終的な解決にはならない。

 本書は何気なく、しかし本気で、その最終解決への認識の糸口を提供しようとしている。それが階級闘争への自覚だ。「今という時代を知るために読む。この一点だけで読みます」と『資本論』紹介を目的とした本書のスタンスが表明されている…しかも、その『資本論』は「階級闘争の書です」…なのだ。

 資本主義のシステムや価値の形態を語ること(のみ)で現実とのマテリアルな接触を回避し逃避してきた各種分析理論は、ケインズ理論のように政権与党によって現実に駆使され成長し鍛錬されてきた理論とは違って、ただタームを列挙する言葉遊びそのままに呆られるタイミングを待つだけになっている。
 リアルに泥まみれになれない、科学を自称する○○理論などとも違って、本書は正統サヨクのセントラルドグマである剰余価値説あるいは労働価値説を簡明に解説し生産(労働)の価値と交換(市場)の価値のギャップが隠蔽されるところに問題があることを示唆している。

 リアルで説得力があるのが…資本主義が国家を超える独占を形成し、そういったグローバリズムの世界的な拡大が、やがて大きな変化を意外に早く招くかも…という指摘。それらを支える基本認識こそ「資本主義とは、人間関係である」というグレート?な断定が圧巻だ。
 真っ当なサヨクの認識ツールの登場となるか? 本書にはさまざまな読まれ方、利用方法が期待されるだろう。

(2008/06/21)
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超訳『資本論』 (祥伝社新書 111)

著:的場 昭弘
参考価格:¥882
価格:¥882

   

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2010年10月12日 (火)

「一週間de資本論」&資本論はテキトーか?

昨日は「一週間de資本論」の再々放送があったとか…

  マルクスは、シャトーマルゴーといった高級ワインを日頃飲んでいる人なんです

マルクスが日頃から馬術、拳銃、ワインなどオタク的な趣味の人だったことを的場さんが披露。森永さんの「マルクスっていい人ですねえ」の一言が印象的でした。恋愛で決闘したことやお手伝いに隠し子を産ませたことは披露されませんでしたが…。さらにワインについて言及すると資本論の理論が崩壊するから、というようなことをマルクス自身が示唆していた?こともコメントされました。

ココなりのタネあかしをすると、資本論が理論として成立する範囲内で理論化した…というのが資本論の基本的なスタンスになります。これは理論や思想の評価水準、表象の仕方がTPOで異なることを考察した『ドイツ・イデオロギー』や、マルクスの歴史観そのものでありスタンスです。また資本論の諸概念の一刀両断的な措定はエンゲルスの働きだったと思われますが、資本主義のモデリングには効果的だったかもしれません。

物質的な基盤の発展ではなく、それにともなう文化や言語や思想や感性の変遷そのものがマルクスの興味であるのはマルクス自身が述べています。

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マルクスがお気に入りのワインや、森永さんが集め続けて10万個にもなったミニカー、一体で10数億円もする村上隆さんのフィギュアなどは特殊商品であり、そういった特殊商品はマルクスが理論化を回避?したということみたいですが…。いちばんの特殊商品である貨幣については、その価値が追究されているのは資本論だけかもしれません

不足に備えての用意だった商品のストックから、やがて何にでも交換できる商品としての貨幣が登場します。この解釈はアダム・スミスからのものですが『ハイ・イメージ論』でその解説がされています。

このアダム・スミス的な認識の延長からは、貨幣は<価値の予期>であるという定義が可能です。あるいは商品の予期としての貨幣が措定できます。

商品が足りなくなる無くなってしまうことへのヘッジとして商品がストックされ、時間的な問題が解決します。さらにはストックの交換可能性を空間的に無限遠に広げるものとしての商品の抽象化=貨幣の産出・生成が考えられます

番組では(解釈の一つとして)資本論では特殊な商品である金が貨幣になったと解説されます。そもそも金に価値が見出された由来そのものがあらゆる商品のヘッジだったはずです。

ヘッジファンドがグローバルマネーのコアであることは確かですが、そこにメガトレンドを見いだせるかどうかを問われるのが現在でしょう。何かを見出すとはもちろん認識力であり思考能力です。

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マルクスをめぐる評価はいろいろありますが、もっとも基本的な評価は『資本論』の資本主義分析は的確かどうか?というもの。具体的には労働価値説や剰余価値説の問題、資本主義の限界と共産主義という解決?の問題などいろいろあります。

労働価値説や剰余価値説を否定するのに援用されるのが効用価値説ですが、主観的であり数値化、客観化が困難です。そもそも生産のコストを数値化しようとする労働価値や剰余価値と消費と享受の実相を測ろうとする効用価値は比較可能なものではありません

生産と消費における価値のカップリングが資本主義全体における価値であって、労働価値と効用価値を別々に取り上げ対立するかのように考えるほうがオカシイのです。

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2010年10月 8日 (金)

「一週間de資本論」&ジャック・アタリ

NHK「一週間de資本論」のオープニングがジャック・アタリでした。フランスの経済学者として紹介され「Jacques Attali 『Karl Marx』」の著作の映像とともに彼のコメントから番組はスタートします。(『Karl Marx』は伝記?)(*再放送はいつだろう…)


  マルクスの考えが今ほど的確である時はない

  マルクスを読まなければ21世紀は理解できない


アタリは左翼ミッテラン政権の大統領顧問を務め、右翼サルコジ政権でもアタリ委員会を主宰。ミッテラン時代からEU統合のイデオローグとして活躍し欧州復興銀行総裁などを歴任。現在はプラネットファイナンスの代表としてマイクロファイナンスソーシャル活動の立役者。資本主義分析ではすべてを情報に換算し、その<交通>から社会を考察するなど先駆的なマルキストでフランス最高の知性ともいわています。

最終回にもジャック・アタリが登場します。今度は「フランスの思想家」と紹介され、仏語版の『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』をもったインタビュアーにアタリが答える映像で、彼は問題の提起と解決への希望を示していています。


 ― あなたは著書の中で将来破局が訪れると述べていますね?

 破局を避けるのも突き進むのも私たち次第です。
 どんなに困難でも今から回避する方法はあります。
 そのためには世界の市場を正しいバランスに保たなければなりません。
 市場のグローバル化とともに
 民主主義政治もグローバル化しなければならないのです。

 ― 資本主義は生き残ることができますか?

 秩序がなければ資本主義は崩壊してしまいます。
 資本主義がグローバル化したとき世界政府がなければ生き残ることはできません。
 現在の資本主義は不平等を増しています。
 誰もそれを改善していないのです。

           
21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

翻訳:林 昌宏
参考価格:¥2,520
価格:¥2,520

   

       -       -       -

           
一週間 de 資本論

著:的場 昭弘
参考価格:¥1,050
価格:¥1,050

   

番組「一週間de資本論」は「通称マルクスオタク」と自称する的場昭弘さんをメインコメンテーターに毎回ゲストを迎えて討論。全4回シリーズとしてマルクスの『資本論』の現代の資本主義への認識が的確であるかどうかを巡って議論されていきます。的場さんの著書「超訳『資本論』」にも資本主義が国家を超える独占を形成しつつあグローバル化にこそ解決の契機を見出そうとするスタンスがあり、アタリとの根本的な共通項になっているようです。もともと『資本論』は経済学への批判であり副題は「経済学批判」です。その意味するところは深く大きいといえそうです。


  第1回「資本の誕生」
     ゲスト 森永卓郎 (経済アナリスト・獨協大学教授)

  第2回「労働力という商品」
     ゲスト 湯浅誠 (NPO 法人自立生活サポートセンター・もやい 事務局次長)

  第3回「恐慌のメカニズム」
     ゲスト 浜矩子 (同志社大学大学院教授)

  第4回「歴史から未来を読み解く」
     ゲスト 田中直毅 (国際公共政策研究センター理事長)

           
超訳『資本論』 (祥伝社新書 111)

著:的場 昭弘
参考価格:¥882
価格:¥882

   

       -       -       -

 アタリは今回の金融危機をめぐりグローバルマネーへの規制を主張していますが、この点ではドイツの代表的な論者やアメリカのガルブレイスからは批判もされています。市場を規制してはならないということです。合成の誤謬という面から考えても、市場は関連する他の市場や無数の共同性(体)との間でコーディネーションの失敗を産出する契機ですが、それは市場そのもののせいではありません。市場や共同体の参加者、構成員の自律的責任に帰する問題が市場で露呈するにすぎないからです。この意味ではサンデルのように「正義」を語る意味はあるでしょう。

 サンデルの「白熱教室」を「機能主義!」と切って捨てた人がいますが、それはそのとおりで、だからこそ議論し続ける必要があることも確かでしょう。欧米哲学やあらゆる論理は単に機能(主義)にすぎませんが、ツールやギアはそうやって使われることに価値があり、そういう思想や理念があることも確かです。それを上手に使いこなすことこそ人間が目指すことでしょう。(使われちゃうと悲劇ですが)

 立場を超えて納得できるマルクスの言葉に“人間は解決できる問題しか提起しない…”というものがありますが、この楽観性はマルクスをよく読んでいるグローバリストやネオコン、ネオリベの人たちからこそ感じることがあります。最近ではジジェクのような共産主義のエバンゲリスト?もポストモダンの共産主義――はじめは悲劇として、二度めは笑劇として』ゲバラのような楽観主義を語っていたりして元気ですね。

           
ポストモダンの共産主義 はじめは悲劇として、二度めは笑劇として (ちくま新書)

翻訳:栗原 百代
参考価格:¥945
価格:¥945

   

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