<記憶>のはじまるところ
心の発生の基礎を記憶に求めることができます。
遺伝子の自己複製が記憶の原型とされ、そこから記憶をベースに展開される理論が発生生物学者の木下清一郎の『心の起源』です。「ポアンカレの「科学と方法」あるいは「科学と仮説」こそが科学者としての提示すべき仕事だということを表明できる人」と評されるそのスタンスは、もし吉本隆明が三木成夫を知るように木下清一郎を知っていたらどうだったろうかと考えさせるものがあります。
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記憶の発達段階
1.負の記憶 本能の段階
生得的な触発要因 生得的な行動パターン
照合のみ
2.空白の記憶 刷り込みの段階
後天的な触発要因 生得的な行動パターン
感受期に刷り込まれる
3.正の記憶 条件反射の段階
後天的な触発要因 生得的な行動パターン
保持は可逆的
4.意志の自由 意志の段階 後天的な行動パターン
後天的な触発要因 変更可能な行動
選択による変更可能
記憶は、情報を刻印する「記銘」、それを保存しつづける「保持」、これを再現させる「想起」の3つの機能に分解できる。
1.本能行動を誘発する因子(リリーサー)は生得的に刻印され封印されている
<負の記憶>である。
記銘と保持が固定的であり、想起だけは外からの刺激によってあらわれる。
2.空白であるリリーサーの枠に後天的因子が組み込まれることによって完成する
<空白の記憶>である。
記銘、刻印はある時期に一度だけであり変更はできず不可逆なものである。
3.リリーサーの条件刺激となる情報の刻印はいつでも可能で後から差し替える
ことができる。
知覚領域への刻印はすべて条件刺激として併用され、その保持は固定的では
なく可逆的である。
保持の能力に可塑性があたえられ、忘却が可能になったことで記憶の三要素の
原形がそろった<正の記憶>。
4.行動の契機となるリリーサーの刺激を差し替えることで取るべき行動の選択が
可能になった。
これまでの受動的であった生物は能動的にふるまう基盤をもったっことになる。
情報の記銘、保持、抹消を自由にすることで意志が発現できるようになった。
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心の起源―生物学からの挑戦 (中公新書)
著:木下 清一郎
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