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2016年3月 5日 (土)

時間性・リズムという科学

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時間性・リズムという科学

 心的現象とともに人間の根源を問い、言葉の発生までをターゲットにしている「母型論」では、胎内の胎児からフォローしながら、根源に時間性(リズム)があることが示されている。ここで考察されるのは共同幻想論のように上部構造(観念によって構成される)といわれるものではない。ある意味で生物的な意味合いに満ちている言語獲得以前の人間個体の発生と発達の段階での物語だ。これを発生学者である三木成夫に着想を得て吉本は展開する。睡眠・覚醒と代謝・分泌などのバイオリズムがベースにあることを<大洋>のイメージの前提に、羊水にまどろむ胎児の心的世界である大洋と、羊水に浮かぶその状態そのものが分かちがたく論じられていく。それはフロイトにおけるエロスの概念でもあり、生そのもの。羊水に浮かぶことは生の欲動に身を任せることであり、そこにはバイオリズムを根源で統御する大洋の<波動>が表出される。
 生そのものは<原生的疎外>と表現され、現存在分析の延長線上に恣意的に語られるようなことはない。形而上学的思弁は排除されているからだ。「H2Oと表現したい」とはこういうことだろう。古典であろうと何であろうと、論者によって定義が異なるような理性や悟性や感性というアバウトなものは、ここにはない。

   心的な領域を原生的疎外の領域とみなす
   わたしたちのかんがえからは、
   ただ時間化度と空間化度のちがいとしてしか
   <感性>とか<理性>とかいう語が意味するものは
   区別されない。

       (『心的現象論序説』「Ⅲ心的世界の動態化」P93)

 心は身体に依拠するが還元はできない、と定義される心=観念、精神。その心を可能なかぎりマテリアルなものに還元しようとしたのが心的現象論であり、吉本の各理論はその基礎の上に立っている。
 もっとはやく三木成夫を知っていれば…と吉本隆明は述べている。三木成夫の発生学者であり解剖学者である知見が吉本に与えたマテリアルで機能的な根拠は、読者が想像するよりはるかに大きいのかもしれない。
 生物の形態とその変化を解剖学から見つめた三木の眼差しは、吉本の何をインスパイアしたのだろうか…。

   感受性の薄れの度合いの極限で、心の動きは記億として認知されるといっていい。
   もうひとつ発生学者の考え方から汲みとるべきことがあるとすれば
   内臓感覚には自然な自動的なリズムがあり、
   これは心音や呼吸のような小さな周期のリズムから、
   日のリズムや季節のリズムまで多様なリズムを表出し、
   体壁系の感覚もまた睡眠と覚醒のようなリズムをもち、
   これは心の動きに規範を与えることに加担し、
   やがて大洋のイメージが意味形成にむかうことにっながってゆく。

                         (『母型論』「大洋論」P49~50)

 「心の動きに規範を与え」「意味形成にむかう」ことの根本に生体のリズムがおかれている。ここに完全なるサイエンスである吉本隆明の思索を読む取ることができるだろう。心的現象論序説の時間性に関する記述ではサイエンスはさらに徹底されている。また規範と意味形成というノエシスな作用の根本にリズムがおかれていることは注目すべきだ。

   …思考の固有時間性にともなって<身体>の時間性は変容させられ、
   この変容の態様にしたがって、<身体>はその<クロナクシー>をすてて
   変容された時間性に対応する変形と、変形された行動とを体験する…

                (『心的現象論序説』「Ⅲ.心的世界の動態化」P110)

 神経生理の閾値である最低刺激量=クロナクシーを基礎にあらゆる認識が生成することが簡明に記されている。
 固有時間性は個別的現存=個体のパーソナルな時間性だが、その前提に認識を統括する普遍的な身体の時間性があることが宣言されている。難解といわれる心的現象論序説だが、これほどキッチリと書かれたサイエンスの書も珍しいかもしれない。
 時間性をコンピュータでいうクロック=作動周波数とすれば、マザーボードと中央演算回路の関係のようにクールでデジタルなモデルがここに登場するだろう。心身問題をOS(オペレーションシステム)の問題として把握しようとする学術分野があるほどだが、デジタルや数理理論オタクにありがちな偏りとは異なり、吉本のアプローチはまったく領域やボーダーさえ感じさせない普遍的な何かがあるのではないだろうか。
 その根幹にあるのは<ゼロ>という概念の導入による思索そのものだ。
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