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2016年1月16日 (土)

液性環境の動的平衡からはじまる…『心は遺伝子をこえるか』

 本書はポストモダンの最大の成果である<自己言及>をスタートにもゴールにも基礎にしている。もちろん著者は思想的な運動であったポストモダンに関心などないだろうが、ポスモダの当事者が何らかの解も何も出せなかったのと比べれば、本書の成果はとてつもなく大きいといえる(もちろん浅田彰氏のように何も提出しなかったことでポスモダの解というものを体現したスタンスは貴重だ)。そもそも自己言及というものを問題の基礎に据えたベイトソンなどのクラスを除けば、ここまで到達した思索はない。松岡正剛氏が著者をポアンカレーにたとえるほど評価している理由も、本書を読むと歴然だ。

   自己触媒こそは、生命の系をつらぬいている鍵となる概念であろう。
   『心は遺伝子をこえるか』(木下清一郎・東京大学出版会)
   「第一章 遺伝子は生命を機械になしうるか」「2 「心」の誕生」「(1)動物に心はあるか」(P15)

 本書『心は遺伝子をこえるか』でいう細胞間コミュニケーションは<内コミュニケーション>とオーバーラップする。リン脂質の液性環境に浸った細胞には安定と変化という相反するものが可能で、その平衡状態に対応するものとしての心的現象が想定でき、時点ゼロの双数性として設定できる。

           
心の起源 生物学からの挑戦 (中公新書)

著:木下清一郎
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 遺伝子が自己複製するためにはあらかじめ自己を<記憶>しておくことが必要であり、この記憶を<心の起源>とするのが『心の起源』だった。本書はその延長にあり、さらには考察を深め、生命にとっての心が探究されている。


 あらたにはいってくる情報と過去の記憶との照合がおこなわれ、
 ある判断がでてくることになる。それにともなってもう一つ、
 照合にさいしての満足度のようなものとして、感情があらわれてくる。
 判断と感情の最初の出現は、記憶の形成とおなじくしていて、そのあと、
 判断の複雑さが増していくにつれて、感情の複雑さもその度合いを増していくというように、
 心はしだいに複雑になっていく。

             『心は遺伝子をこえるか』(木下清一郎・東京大学出版会)
             「第一章 遺伝子は生命を機械になしうるか」「2 「心」の誕生」
             「(1)動物に心はあるか」(P9)

           
心は遺伝子をこえるか

著:木下 清一郎
参考価格:¥2,592
価格:¥2,592
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 感情や気分といったもっとも人間らしいものについてキチンとした定義ができない人文科学に対し、本書はハッキリした解を示してもいる。
 過去の記憶と照合したときのズレに対する評価としての<感情>や<気分>「液性環境が気分そのものになる」という明確な定義。ある特定の気分(=状態)というものは、この<液性環境>のある何らかの偏りを示すことになる。これは健康診断で最も重要で基本的な指標となる血液検査からも類推できる。血液環境は液性環境の代表的なものだ。細胞間コミュニケーションをとる液性環境を生成する最大の要因と資源は血液であり、そのさまざまな反応や変化が「内分泌系を主体とする液性の細胞間コミュンニケーション」なのだ。


           
細胞のコミュニケーション―情報とシグナルからみた細胞 (生命科学シリーズ)

著:木下 清一郎
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 この内分泌系の細胞間コミュニケーションとともに個体を構成する情報システムのもう一つが神経系だ。神経系の基本的な作動である<反射>、情報のストックである<記憶>は、自らの安全・安定のために過去の記憶と現在の認識を照合する…。
 照合は判断(環境と世界に対する適・不適などの判断、思考)のはじまりであり、その結果は気分としてその時点での総合判断・統合認識を形成する…。
 具体的にはリン脂質をメインにプロスタグランジンなどの微妙な変化と増減によってその時点での状態が体現される。これがその時点での気分だ。もちろん気分は変化していく…。

 個体というシステムが平衡を維持するように自己変化するのが動的平衡であり、これは自己言及によるフィードバックを前提とするコントロールだ。

 遺伝子の自己複製と、単細胞の多細胞化という進化の過程を仔細に考察しながら、心の発生を探究する本書。

 自己表出として表出する心の由来や生成はどこに求められるのか…?

 動物の鳴声やさまざまな生物の個体間におけるサインによる交換などは機能分析はできても人間の言語の発生のヒントにはならない。

 記憶と現況認識の照合、それらを総合したものとしての概念や情報。これらの膨大なストックから特定の関係を自在に取り出すための言語。ここに情報のタグとしての言葉の生成を見出すことができる。
 詩人は自由に詩がつくれると考え、言語学者は言語があると思っている…という吉本隆明のアイロニカルな指摘。それを背理にするような言語の基本的な定義をここから考えるコトができるだろう。

 大脳新皮質での情報処理が連合野の登場により総合的なものに発展したことは重大な臨界点となる。それまで、個々の感覚からの情報を概念にまとめていたのが、複数の概念を比較し相互に参照するようになったのだ。このことによって、たとえば、猫や犬のように自分の尻尾を追いかける…ようなことがなくなったといえる。個別の感覚が常に別の感覚や認識からチェックされているからだ。
 言語の生成により人間がトレードオフしたものは、母型論的にいえばスキゾフレニックなものだが、それとは別に、ここにも人間の自己に亀裂をもたらす機会が生じたともいえる。複数の中心を産出しうる連合野の登場は複雑な情況を生き抜くための方便であるとともに、人間にスキゾフレニックな認識をもたらしたからだ。

 生物としての種が、個体(の限界)を超えて担保されるための装置として快楽を定義した本書は、ジャンルを超えて先端であることは確かだ。欲望や快楽や誘惑をテーマとしてきた思想や哲学が到達できなかった解さえも、ここにあるからだ。

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