言語とイメージが探究される理由は?
言語が自己表出と指示表出の二面をもつものだとして、その生成から探究していく論考は他にはないのではないでしょうか…。なぜその生成そのものが問われたのか? 誤解を招く可能性も承知のうえでいえば、それはイメージを探究するためだと考えられます。
言語にイメージを与えているものは何か?
あるいは
言語がイメージさせるものは何か?
といった問題を
言語にとって美とはなにか?…と吉本隆明は問い続けています。
端的にいえば「言語にとって美とはなにか」は言語とイメージの関係を探究したもの。そしてそのために言語の生成からトレースしていったもの…になります。別の言い方をすれば、結果として優れた言語論なのであっても、それが目的ではなく、ましてや言語を追究すればイメージが解明できる…という安易な認識によるものではありません。
イメージを追究するためには言語について考察するしかなかった…ともいえるものであり、言語(だけ)を追究しても平凡な哲学の域をでないことは予め確認されたうえでの言語論としての「言語にとって美とはなにか」になります。
言語における指示表出を、資本主義のプロダクト全般=作品にまで拡張したイメージ論では、当然ですが、特定ジャンルでしかない言語論のままではフォローできません。「言語の概念をイメージの概念に変換する」…という吉本隆明の企てがどれほど多くの論者を振り切ったのか。マス&ハイのイメージ論に至って大部分の論者が吉本に言及しなくなったのは、その一つの証拠かもしれません。正確には言及できなくなった、ということでしょう…。
マス・イメージ論 (講談社文芸文庫)
著:吉本 隆明
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ハイ・イメージ論〈2〉 (福武文庫)
著:吉本 隆明
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ラジカルな問題として<イメージ>とは何でしょう?
イメージとは?…と、漠然と思索する前に、吉本の論考はきわめてシステマチックに構成されていることがわかります。
言語の概念をイメージの概念に変換することによって
三部作に分離していたものを総合的に扱いたい。
イメージ論 (吉本隆明全集撰)
著:吉本 隆明
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言語分析だけで人間が探究できるならば、精神分析も分子生物学も必要ありませんが、事実はむしろ逆で、吉本の思索はイメージを探究するために言語からバイオリズムまで、生命に関わるほとんどずべての知見が求められているという認識にもとづく展開になっています。
【合本版】定本 言語にとって美とはなにか (角川ソフィア文庫)
著:吉本 隆明
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もっとも基本的なところでは三木成夫の発生生物学(「胎児の世界」)、解剖学的(「ヒトのからだ―生物史的考察」)見地から、呼吸によるリズムや発声という延長に言語についての思索がめぐらされていきます。その延長では言語外の母子関係である内コミュニケーション が考察されています。外コミュニケーションは言語による関係であり言語論や社会学的な対象となるものですが、内コミュニケーションはそもそも無意識的なものであり、内分泌系や生理反応的なもの、レセプターやイオンチャネルなども関係する分子生物学や細胞学的なものです。
胎児の世界―人類の生命記憶 (中公新書 (691))
著:三木 成夫
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母型論
著:吉本 隆明
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心とは何か―心的現象論入門
著:吉本 隆明
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さらに「母型論」や「心的現象論入門」では人間の睡眠・覚醒と月や潮汐の25時間周期のリズムと地球と太陽の関係である24時間周期のリズムを取り上げ、この2つの周期のリズムのズレが人間の睡眠や覚醒の障害の原因であると指摘されています。共同幻想論などで取り上げられてきた幻想の生じる契機である夢幻様や入眠状態というのは、睡眠と覚醒の純粋状態であることを考えると、リズム(時間性)を基礎とした最もラジカルな環界といういうものが可視化されてきます。身体の時間性が心的現象を統括しているとする心的現象論のいちばんの基本的な認識の基礎になるものがここにあります。
社会的な環界としての言語の第一義的な意味とは別に、個別的現存たる個体の環界の基礎は自然のマテリアルであることが明白です。水をH2Oと表現したいという吉本の願望は、その理論全体によってはじめて顕在化するのかもしれません。固有時に普遍的なものを求めた、あるいは探そうとしたスタンスが、そこにはあります。マルクスが類の根拠を個体に求めたのと同じようなもの…。
海・呼吸・古代形象―生命記憶と回想
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