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2014年6月20日 (金)

了解の系としての4つの時間性=クロック

 いっさいの了解の系は
 <身体>がじぶんの<身体>と関係づけられる<時間>性に原点を獲得し、
 いっさいの関係づけの系は
 <身体>がじぶんの<身体>をどう関係づけるかの<空間>性に原点を獲得するようになる。

                (『心的現象論本論』「身体論」<11 身体という了解―関係系>P73)

 これは、30数年の思索におよぶ心的現象論によるラジカルな結論の一つ。観念や意識といった心的現象における<了解>についての同定と定義がなされています。端的に、これ以上の微分的考察はなく、これ以外の哲学的な思索もないかもしれません(恣意的なものはいくらでもありますが…)。このことから、心を科学したときの臨界的な定義ともいえるもの。『心的現象論序説』ではこのように時空間概念を駆使して心が解析されていきます…。これらをある意味で純化し、より現代的な科学とする、あるいは(単に)時間性や空間性という概念でよりクールに考察すると、どうなるか…。やはり、20数年以上の思索(と実証や実験)で同じような問題(意識…『〈意識〉とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤』)に到達しつつある認知神経科学などとの公約数的なもの(あるいはエビデンスとして)も意識しつつ、“人間をOSに例える”ような(荒唐無稽な)トレンドさえも念頭において考えてみるのも面白いかもしれません…。

 生命活動そのものが、30億年かけて地球物理学的なスケールの環界から帰納的に生成した、わずか6個の時計遺伝子によって営まれています。そして身体のラジカルなファクターはバイオリズムに代表される数種類の時間性=クロック。胎内から出産、そして生きていくことそのものというストレス以外では、このクロックのあり方そのものが大きなファクターになります。
 心的現象論的には、いくつかのクロックに集約できそうな時間性が、そこにあります。

       -       -       -

 知覚受容に結びつく時間化度の概念は、どのように想定されるべきだろうか?
 もっとも単純なのは、
 人間の<身体>を生理的自然としてみたときにかんがえられる神経伝播の速度であり、
 神経生理学者のいう<クロナクシー>によってこの時間化度は規定される。

                (『心的現象論序説』 Ⅲ.心的世界の動態化 P101)

 最低刺激量としての閾値からの乖離という神経生理学的な認識が、心的現象(論)としての基礎(始源)でもあることが宣言されています。身体に依存しますが、そこに還元はできない心的現象(=観念)への基本的な認識がここにあります。(「還元はできない」ことを念頭に置かないと荒唐無稽な認識になります。いわゆるゲームや人工知能で人間を例えられるとするような…)

 身体の時間性は、生物としての存在でもある人間の自然な時間性です。
 身体の時間性は、人間にとっての自然な時間として他の時間性を統御しています。
 身体のクロックは、身体をマターとする自然(の進行過程)と考えられます。ボディ・クロックあるいはシステム・クロックとして人間個体の基礎になるものです。

 観念の時間性は、感情や感覚的なものも含めて可変的な、伸び縮みする時間性です。 楽しいとあっという間に時間が過ぎ、大変なことは長く感じたりするのがその例です。
 観念のクロックは、<感情><感覚>をマターとして変化すると考えられ、マザー・クロックといえるものです。 

 思考の時間性は観念の時間性の影響を受けますが、ロジカルな時間性として人間が自らコントロールできるものでもあり、学習や経験によって可変的なスマート・クロックです。
 思考のクロックはロジカルであり、マターとしてはコントロール可能です。

 環境の時間性は、自然環境そのもののマテリアルな時間性であり、いちばん大きな影響を人間に与えています。たとえば成長や老化や死は、人間がどんなに努力しても免れません。しかし、部分的局所的には働き(労働)かけて変えることもできます。
 環境のクロックは、宇宙や地球環境を最大のものとし、身近なマテリアルに至るまでさまざまなものがあるマター・クロックです。
 人間がテクニカルに働きかけることにより変更が可能です。

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人間の個体の全体性は身体のクロックに統御されて維持(=動的平衡)されています。
人間個体のあらゆるイレギュラー=異常や病気は、この個体のクロックをシステムクロックとしたコントロールからハズレること。

   …思考の固有時間性にともなって<身体>の時間性は変容させられ、
   この変容の態様にしたがって、<身体>はその<クロナクシー>をすてて
   変容された時間性に対応する変形と、変形された行動とを体験する…

                (『心的現象論序説』 Ⅲ.心的世界の動態化 P110)

そのシステムクロックともっともシンクロすることを求められながら、同時に常に反作用としてシンクロ率に大きな振幅をあたえているのが観念のクロックです。人間のマザークロックとしてあるこの観念のクロックは<大洋の波動>として<母>から授かったもの。その継承もネガ・ポジを両極とする数段階のステージを含む両価的なもので複雑。個体におけるその表層的な位相が、ここで「思考の固有時間性」と呼ばれているものだと考えられます。

   …分割された対象性の再構成が
   <クロナクシー>によって規定される時間化度を離脱すればするほど、
   わたしたちは高度な時間化度をもつものとかんがえることができる。

                (『心的現象論序説』 Ⅲ.心的世界の動態化 P102)

対象への認識(知覚など)は脳内(観念内で)で再構成されて最終的な認識(自己確定)へ進んでいきますが、この時に時間性(時間化度)が認識を大きく左右する(される)ことが示されています。問題はこの時間性の由来と行方です。
「分割された対象性の再構成」というのはとてつもなく大きなファクターで、認識上の統合失調症的なものも、言語の表出などに関する問題も、ダイレクトに影響しているのはこの次元でありこの段階でありこの領域の問題です…。

成長するにつれ、このマザークロックに大きな影響をあたえていくのがスマートクロック。
スマートクロックは均質性に依拠した論理(性)でもあり、思考のクロック。意識(的な)のクロック、人為的な科学的なクロックともいえます。

このスマートクロックのリソースとなっているのは自然であり環境である物理的な世界(に由来するもの)で、マテリアルな世界における論理性や法則性がスマートクロックの原資となっています。

そしてスマートクロックや先のシステムクロックに最も影響をあたえ、規範にもなっているのが自然や対象そのもののクロック。マタークロックともいえるものが想定できます。クロノス時間?と近似するものも含意されるといえるかもしれません。

       -       -       -

これら4つのクロック…

 システムクロック
 マザークロック
 スマートクロック
 マタークロック

…は相互に関連し互いにそれぞれのリソースでもあり、TPOに応じて特異点的に個を形成(構成)しています。

クロック相互の関連である<シンクロ>を起点に思索をめぐらせ、個体のすべてのシステムの内的連関を理論化できる視点が吉本隆明氏の論考にあります。

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2014年6月10日 (火)

「これはパンだよね?」を分解すると…自己表出・指示表出

指示表出や自己表出というものを考えていくつかエントリーしていますが、単語や品詞に則したものでは「<はこれねよ?パンだ>」で以下のようなものがあります。ちょっと考え手を加えて再掲?してみました。

「<文>が先か<単語>が先か」という問題ともラジカルに関係しますが、文を単語や品詞に分解してみる分かりやすくなります…。まず、そこで分かるのは…単語に分解してしまって、文という全体像がわからなくなると、個々の単語の意味も不明になる…ということです。

たとえば<これはパンだよね?>という日常的な言葉(文)から何がわかるのでしょうか…?

     これはパンだよね?

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 たとえば、
 <は><だ><よ><ね>がどのような助詞なのか副詞なのかといったことはわかりません。

 <これ>は何かを指示していることはわかりますが、何が指示されているかはわかりません。

 <パン><?>が名詞と記号化した疑問詞だということがわかるだけです。

 すると次のことがわかります。
 <は><だ><よ><ね>といった助詞や副詞と思われるものは、文全体との関係がないと判断できないということ。
 <パン><?>という名詞と記号は単独でも意味があるということ。
 <これ>は指示代名詞で、助詞と名詞の中間のようなタイプだと考えられます。

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 助詞や副詞は単独では意味が確定できない。
 名詞や記号は単独でも意味がある。
 代名詞はそれらの中間で、何かを示しながら示されたものが何であるかは不明です。

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 基本的に言語は、この助詞から名詞までのグラデーションなかのどこかに位置づけられるというのが、吉本理論の根本にあります。

 つまり、
 この助詞から名詞までのグラデーションを主体の表出の度合いの差異と考え、そこに主体性を見出すワケです。
 別のいいかたをすれば、パフォーマティブからコンスタティブへのグラデーションということです。

 また、
 名詞のように主体の表出としての価値はゼロでありながら、他者が容易に認識でき、共同性のコードとして機能するものがあります。

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 吉本理論的には助詞や副詞が自己表出で、名詞は指示表出です。
 助詞が遠隔化したものが名詞だとも考えられます。
 主体の発声が客体化され、主体から完全に切り離されたものの典型が名詞だということです。

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 ところで現実的な問題として、
 <これはパンだよね?>の<は>の問題があります。

 <は>は単なる助詞ではありません。
 限定か主格か? <は>の指し示している属性はそのTPOや状況からしか判断できません。場所を捨象し、文脈を無視して言語や理論だけ取り出しても意味は無いワケです。

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 たとえばアートとしてすぐれた表現というのは、名詞に助詞の意味をもたせるようなもので、それは享受サイドの鋭敏さ(読解力)も要求されるものです。

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