自信のあらわれとしての『詩人・評論家・作家のための言語論』
自推の言葉が「ぼくの自信のあらわれです」という、何ごとにも控えめな著者のめずらしい宣伝?が興味を引く、いろいろな面で興味ぶかい本です。
吉本理論が圧縮されてコンパクトにまとめられたパンフレット用のような一冊で、ほぼ全ページにわたって均等に吉本理論がガイドされています。簡明なガイドですが比較的に難しいコトまで紹介されているのでヘビー級の読者にも読み応えのあるものになっています。3部作(『言語にとって美とはなにか』『共同幻想論』『心的現象論序説』)をはじめムズカシイ?著作が多く、そのスタートや興味の持ちようで理解が大きくシフトしてしまうことが少なくはない吉本理論にアプローチするにはベストかもしれません。
「詩人・評論家・作家のための」とコピーされているとおりで、その実用性?の高さも魅力でしょう。表現(しようと)する者にも、批評(あるいは理解)しようとする者にも、そのスキルを高めてくれる内容は理論書には珍しく、また同時に理論の深さもあるという特異な一冊になっています。
胎児からスタートし最後には構造主義文学理論まで解説されるページ構成は、ほぼ人間の発達段階に沿って展開されていて、それが吉本理論を読解するための基本的な助けになっています。
文学作品は要するに
韻律・撰択・転換・喩の四つの使い方で決定される…。
主題でも何でもありません。(P161「言語論からみた作品の世界」)
ふつうの文学理論を読むと、
撰択などは芸術性のなかに入ってきません。
考えも及ばないわけです。
…
ある場面、ある対象を選んで書いたということは、
もうすでに芸術性なのです。(P162)
表現(者)としても比評(者)としても大変に勉強になるコメントですが、認識(方法)に場所的限定を勘案しているところが日本的(柳田民俗学、西田哲学)であり、マルクス的でもあり、普遍的です。場所を捨象し言語だけの構築に意味を見出そうとするデリダ的な(あるいは西欧的な)認識を超えています。
さらには「韻律・撰択・転換・喩の四つ」に加えて現代のテクノロジーだからこそ可能になったファクターとして<パラ・イメージ>が紹介されます。ここでも『ハイ・イメージ論』の現代的な意義が確認できるでしょう。
生まれたばかりのネコをイヌが育てたら、
ネコの子はイヌを親だとおもいます。
…
それは母親が全世界で、
ほかとの関係がないからです。(P29「言葉以前のこと」)
こんなに簡単に心的現象の初源の意味が説明されてしまいます。ある意味すさまじい破壊力でもある思想の片鱗が簡明な言葉となって全ページに見出せる一冊でもあるでしょう。
詩人・評論家・作家のための言語論
著:吉本 隆明
参考価格:¥ 1,680 価格:¥ 1,680 |
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