『カール・マルクス』市民社会を解き明かす方法
〝市民社会・法・国家〟の関係を解き明かしていくマルクスから吉本理論が何を獲得したか、吉本理論によるマルクスへの評価といったものが明らかにされています。ヘーゲル/マルクスというオーソドックス?な関連から、その読解の仕方まで、吉本理論のラジカルでベーシックな原理とスタンスが明らかになります。単なるマルクスへの批評としてもシンプルで原理的ながらすべてを押さえている深さとパースペクティヴが圧倒的です。
社会-国家あるいは宗教における<共同幻想>の展開 が明かされていて、ヘーゲルから継続する〝観念の弁証法〟の普遍性と方法論としての確実さが明らかにされます。心的現象論的なアプローチとともにある意味で吉本読解の前提として必読の書でしょう。
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マルクス主義のガイドやマルクスの人物伝は少なくない。しかし書き手に思い入れがあるせいかヤケに熱かったり冷笑気味だったり左右両派?のポジションの滑稽さをそのまま表明したようなものが多く、ましてや理論的な真偽や価値となれば失望さえする。
マルクス思想の研究では構造主義以降の見解でマルクスの初期と後期では認識論的切断があるという立場が目立つ。ニューアカから全共闘のノスタルジーが漂うものまでそれは共通するようだ。構造主義は弁証法を超えた、物象化論は疎外論を超えた、関係論は存在論を超えた、経済システム分析は素朴なヒューマニズムに優先する....。
本書では『経済学・哲学草稿』
に代表される初期マルクスと後期の『資本論』
がまったく同じテーマを同じ方法で追究していることが解き明かされていく。これほど簡明でしかも根源的なマルクス論は他にないかもしれない。おそらく稀有な一冊だろう。
それどころか共同幻想や純粋疎外などのタームに象徴される著者の思想や理論的なスタンスがまるでマルクスのように一貫したものであることもわかる。だがアインシュタインが10代で相対性理論を発見しながら、それが表現できるようになるまでに長い月日を必要とした(に過ぎない)ことを考えてみるとそれも不思議ではない。優れた哲学者はたった一つのテーマを持つという某有名哲学者の言葉はきっと真理なのだ。
疎外がどのように再帰し、その展開がどのように共同化するのか。本書は簡単に巨大なマルクスの思想を根源から理解できる珍しいマルクス本だといえる。いまだに諸説乱れる国家論や経済学の根本、大衆論や宗教の起源までもが驚くほど簡明に解き明かされていく一冊は読者を限定することなく必読だろうと思わせるものがある。
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カール・マルクス (光文社文庫)
著:吉本 隆明
参考価格:¥500 価格:¥500 |
(2006/06/14)
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