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2009年2月 6日 (金)

現在とガチンコする『ハイ・イメージ論』

ハイ・イメージ論の可能性

 コムデギャルソンからカフカ、高層ビル、村上龍、シュンペ-ター、Aスミス、Jケージ、ブレードランナー、ソシュール、マルクス、そして〝ライプニッツにおける神〟まで取り上げている『ハイ・イメージ論』はまるで〝現在そのもの〟をターゲットにした批評理論です。しかし、その理論的根拠が語られたことはあまりありません。

 

   言語の概念をイメージの概念に変換することによって
   三部作に分離していたものを総合的に扱いたい。

 

 大和書房の全撰集7・『イメージ論』には以上のような説明があります。「イメージという概念に固有な理論、その根拠をつくりあげる」ことを目指し、哲学や現象学が定義しきれないできた<イメージ>について問い、それを根拠に現在を把握していこうとする作業です。

 〝何でもアリ〟といえる〝現在〟というものは、何の規定も制約もない状況であり、その〝ワクのなさ〟はツカミどころのない茫漠としたもの。対象も、主体も、方法さえも、自由でありフリーハンドであることの困難はほとんど全ての科学が直面してきた問題でもあるでしょう。時代をリアルに反映するサブカル文芸では内容や意味、何らかの価値さえ感じさせないものすらあります。しかし、いずれも〝商品〟としての価値を問われる(機会はある)ものでもあり、絶えず社会の中での位置づけと、個体との関係と、それらを俯瞰するハイイメージとの関係から解析されます。この『ハイ・イメージ論』では三部作を通底し、いよいよ全面的に行使される立脚点として<純粋概念>がポイントとなってきますが、もちろん<純粋○○>というタームはほとんど(全然ではない)登場しません。表象的には原理的なタームと立脚点さえ消失したかのようななかで〝現在〟が探究されていくワケです。

  無限に増殖する指示表出=モノゴトに対して<純粋概念>を対置するハイ・イメージ論。この作業に並行して、有限な遡行であることの確信のもとに自己表出=個体への探究が『ハイ・エディプス論』『母型論』 として刊行されました。そして指示表出と自己表出、この二つへの探究が本来ひとつのものであり、しかも歴史的な(現実の)ものであることを証明するかのように『アフリカ的段階について』が発表されました。この自己幻想が共同幻想となりえた時代への考察はヘーゲルが〝歴史外〟としたそのものを〝歴史の初源〟として再把握するというものです。現在、共同化しうる自己幻想はアートや文芸として表出し、それはハイ・イメージ論のように把握されますが、自己幻想の表出が政治や権力たりえた時代への考察はプリミティブな世界への探究として刊行されたワケです。そしてもう一度自己幻想が自己表出のサイドから問われるものとして『芸術言語論』が発表され、1月4日放送のETV特集「吉本隆明 語る~沈黙から芸術まで~ともなりました。

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 このイメージ論(マス&ハイ・イメージ論)で有名?になったタームが「世界視線」。吉本さんの思想で「共同幻想」「対幻想」につぐヒツト?となった言葉でしょう。でも内容的には、このイメージ論以降、激しく反発され否定されたようです。おそらく、その理由はカンタンで、視覚情報をメインとした現代のカルチャー論議の中で、自分たちのフィールドを侵犯されると怯えた評論家やインテリさんたちの必死な反発があったということでしょうか。
 問題なのは「世界視線」の定義も理解もできていないレベルの批判がほとんどだったこと。吉本さんの全思想の大前提になっている心的現象論の基本概念である「原生的疎外」や「純粋疎外」への理解がアヤフヤなのと同じで、この「世界視線」への理解も?でした。理論的にいえば「純粋疎外」の延長線上に「世界視線」は成立するものですが、本書ではそれが臨床的な事実に即してわかりやすく解説されています。

 臨死という生命の弱化は、簡単に説明すれば心身の統合されたシステム維持能力の低下です。この心身の統合が低下し、システムのバランスが崩れるというのは、肯定的に表現すれば心身の各能力の変成であって、そこには通常では考えられない認識や受容性が生じます。そこで仮構された認識のある位相を「純粋疎外」と措定するわけですが、「世界視線」は比較的に日常でも遭遇しやすい「認識」として説明されています。
 さらには、その「日常」のレベルこそ超高度資本主義の成果であるとして、ハイ・イメージ論は驚異的な広がりと射程をもつ論考として展開されていきます。「世界視線」を可能にする変成は統合失調症そのものであり、基盤となる日常のレベルというものは経済状況と個人の観念の弁証法的な統一である特定の「階程」であり、あらゆる文芸は「世界視線」の表出という意義を持っている....。コム・デ・ギャルソンにJ・ケージ、精神病から高橋源一郎、村上龍、ブレード・ランナーやランドサット....縦横無尽の探究の中、コアとなる部分でヘーゲル、マルクスがシビアに検討されていきます。本質的に、欧米の思想とガチンコできた唯一人の思索者かもしれないと思わせる迫力が、そこにはあります。

           
ハイ・イメージ論〈1〉 (ちくま学芸文庫)

著:吉本 隆明
参考価格:¥ 1,365
価格:¥ 1,365

   

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GianStep「ハイ・イメージ論を、もう一度読むべきかな」「ウェブ上では吉本氏を引き合いにだして、IT関連のトレンドについて論じているものは見かけたことがないのですが、不思議ですね。」という指摘があります。

…『ハイ・イメージ論 I 』という本は、私達が今現在を生きているというアドバンテージを最大限に利用出来るわけですから、ある程度は客観的に読みこめるでしょうし、今が読むのが旬なのかもしれません。

糸井重里さんや坂本教授がマルチメディアでハイ・イメージ論をつくったら面白そうです。もちろんGoogleEarthもコラボで…

(2006/05/15,2010/10/17)

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